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今月のゲスト:酒井 俊彦さん@グッゲンハイム美術館展(1)


ID_008: 酒井 俊彦(プロダクトデザイナー)
日 時: 2004年8月31日(火)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、鷲尾和彦、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

酒井 俊彦(さかい としひこ)
 1964年高知県生まれ。87年東京造形大学卒業。(株)コーゾーデザインスタジオを経て独立。各家電メーカーの先行デザイン開発のかたわら、家具、インテリアのデザインも手がける。最近作はPizzeria FUMO(インテリア)、情報ネットワーク家電シリーズ(プロダクト/アドバンスモデル)など。

酒井俊彦さん 公式HP


『飾りたくなる絵』


宮澤: 酒井さんは普段どんな風にギャラリーやミュージアムを楽しんでいらっしゃるんですか? まずはグッゲンハイム美術館展についてのご感想からお伺いしたいと思います。

酒井: この展覧会についていえば、時間の流れに沿って並んでいたのはすごくわかりやすいなと思いましたね。ルノワールからウォーホルまで、すべて繋がっているんですね。

高山: そうですね、そのことは意識した構成になっていますね。今回は全てニューヨーク側のスタッフの意向を踏まえて展示構成が考えられました。そういう意味ではニューヨーク・スタイルなんです。

宮澤: 実は今回の展覧会では、最初ニューヨーク側からの提案には何も解説が無かったんですね。こちらとしては、印象派からの流れを時代背景とともに捉えられるようにするために、日本での展示に合わせて解説をつける方法を提案したんですが全て拒否されました(笑)。 でも、酒井さんはそういう解説はあまりご覧にならないんじゃないですか?

酒井: ほとんど読まないですね(笑)。でもここの美術館に限らず、確かにじっくり解説を読んでいる人っていますよね。ああいう解説は読んでも絶対後で覚えてないと思うんですけど(笑)。 観ていて“怪しい絵”ってあるじゃないですか(笑)。 誰の絵なのかなとか、いつぐらいの絵なのかなとか。そういう時には読んでみるのもいいと思うんですけどね。でも僕はやっぱり、絵の展覧会で文字を追いかけるのはもったいないと思いますねえ。せっかくだから絵を観てた方がいいじゃないですか。

宮澤: でもなかなか直感的に観れる人と観れない人がいるってことですよね。僕なんかどちらかというと、そもそも出身は美術史の方なんだけど、わりと直感的に観る方ですね。でも、美術史をやっている人たちには文字だけで美術をやっている感じの人もいる。頭で観ちゃってるっていうことだと思うんですよ。だから直感で観るということは大事ですよ。

酒井: 今回ルフィーノ・タマヨの絵があったじゃないですか。これタイトル知らなかったんですけど「灰色の女」って言うんですね。僕は妻と二人で観てたんですが、二人で「あっウサギ」って(笑)。「絶対ウサギだ」って。

高山: 解説にはインディアンの精霊ココペリなんかに似ているとも書いてありますけど、確かにウサギにも似ていますね(笑)。

酒井: いや、これ絶対ウサギでしょう。ニンジン食べてるし(笑)。と思って寄っていったら「灰色の女」って書いてあって。実はこれ今回一番気に入った絵なんですよ。僕は自分にとってその絵がいいか悪いか、というのは、自分の家に飾りたいかどうか、で判断する部分がすごく大きいんです。ポロックの絵なんかを見ても、「アクションペインティングっていう手法はね」みたいな話は全然しない。 欲しいけど似合わないとか、これ買うんだったらあのソファ変えたら、とか妻ともそんな話ばっかりしてます。

宮澤: 実は僕も家に飾るとどうかっていうのが基準なんですよ(笑)。今回の展覧会は解説が少ないけれど逆にそれがいいと思ったのは、割と直感的に見てもらえるんじゃないかってことなんですよね。作品の中には抽象表現主義のものも多いんですが、もし会場に漢字でそういう説明がたくさんあったらやっぱり嫌な人もいますよね。そういうのはカタログを買ったときにわかればいいんであって、絵を見ている時点ではわからなくてもいいんじゃないかと思います。

海老沢: ルフィーノ・タマヨの絵をお気に入りに選ばれたのは、やはり家に飾りたくなる絵だということですか。

酒井: それもありますが、要するに「ウサギに似ている」っていうことから始まって、妻との会話が弾んだっていうことなんですよ。そういうのが大事じゃないかなと。描いた人にはいろんな思惑や深い思想があったとしても、描く人と観る人は関係ないわけじゃないですか。もちろんぴったり合ったらそれはそれでいいけれど、そうじゃないことのほうが多分多いですよね。

高山: 今回は展示期間が夏休みということもあって、小さいお子さんを連れた親子の方の来館が多かったんです。それで館内に入ってなんとなく近くで会話を聞いていたら、やはり夕焼けのお空の色だねとか、これはロケットに見えるね。。。とか、そういう会話をしてらっしゃるんですね。お子さんが絵を観て素直に喋っているんです。なんだかとても微笑ましくて。

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