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今月のゲスト:島中 文雄さん@モネ、ルノワールと印象派展


ID_003: 島中 文雄(ギャラリーオーナー)
日 時: 2004年2月25日(水) Bunkamuraザ・ミュージアムにて
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、鷲尾和彦、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

島中 文雄(しまなか ふみお)
24年間にわたり、銀座の画廊で務めた後、渋谷のギャラリー『LE DECO ル・デコ』
オーナーに。

ギャラリー『LE DECO ル・デコ』
渋谷駅より徒歩5分。新南口より徒歩1分。明治通りを恵比寿方向に直進、道沿い右手。
通りを挟んで真向いがスターバックスコーヒー。
6階建てのビルのうち5フロアが企画展示と貸スペース。ジャンルを問わず、敷居の低さと間口の
広さを誇る。従来のギャラリーには無い柔軟でオープンな姿勢は特に若いアーティストたちから
注目をされている。

ギャラリー『LE DECO ル・デコ』


『印象派・再発見』


海老沢: 島中さんは今、ギャラリー「ル・デコ」のオーナーとして現代美術のフィールドに身を置かれていますけれど、印象派の作品をどうご覧になりましたか?

島中: 僕は印象派はもともと好きですし、印象派の作品って見なれているんだけれど、今回はルノワールの「裸婦」(1879年頃)は素晴らしかったですね。見た瞬間、「ああ、来てよかったな」と思いました。これは実際にモデルを見ながら描いていたんだろうなっていうのがわかるんです。筆の運びも大胆な感じで、そういう臨場感や瑞々しさが伝わってくる。展覧会っていうのは、ひとつでも感動させられる作品があればそれで満足しちゃうんですよ。もちろん他の作品がつまらないとかそういうことではありませんよ(笑)。印象派展というのは、いろんなところで行われていますけれど、今回のように風景画と人物画の流れを明確にし構成するなど、視点を変えたり、展示を工夫したりすることで、まだまだいろんな可能性があるんだなということも感じました。ちなみに、この「裸婦」という作品は、今まであまり世に出てないんですか?

宮澤: おそらく初めてじゃないかと思います。他のお客様からも説明を求められたことがあるんですよ、この絵に関して。「何でこれだけ違う感じなんですか?」って。実際にモデルを見ながら、その場で描いたっていうのは間違いじゃないと思いますよ。Bunkamuraで以前行った「オランジュリー美術館展」のときに出した「ピアノを弾く少女」がそうなんです。こういうタッチなんですね。で、「ピアノを弾く少女」っていくつもバージョンがあって、オルセー美術館やメトロポリタン美術館に収蔵されているのは、もっと描き込んであるんです。だから、ちょっと途中なんです、ある意味。でもその分、少女がすぐ目の前に佇んでいるような感覚や雰囲気があってとてもいいんですよ。

島中: この作品って1879年頃だから、かなり初期の頃ですよね。やっぱりみんな若いときっていいのかなあ。まあ、完成度は時を経るにつれ増していくんだろうけど。でも、本当にルノワールの感性、味、みたいなものを再確認できて良かったです。

宮澤: そう言っていただけると嬉しいですね。今回は半数以上が個人コレクターの持ち物なので、初めて展示するものも多いんですよ。だから海外の美術館とかに行っても観られない作品がたくさんあるんです。全体的なボリュームも結構ありますしね。

中根: 僕なんかちゃんとした美術教育を受けていないので、印象派って聞くと単純に、明るくてきれいな絵を描く人たち、みたいな受け止め方だったんですよ。いや、中学・高校あたりで習っていたのかもしれないけれど。でも、そういう認識の人って多いと思いますよ。で、今回基礎的な情報を踏まえて拝見していると、こんなにアヴァンギャルドだったんだ、とんがった人たちだったんだっていうことがわかって本当にわくわくしましたね。今さらですが、モネが睡蓮を描いた一連の作品を見て、涙が出そうになりました(笑)。まるでロシアのアンドレイ・タルコフスキー監督の映画の世界ですよ。若いアーティストで映像メディアを使う人が増えているけれど、そういう人も絶対見た方がいいと思いました。もちろん本物を。

宮澤: アヴァンギャルドっていう意味で言うと、そりゃやっぱり、彼らは初めてキャンヴァスを外に持ち出した人たちだからね。それまでの絵画の歴史からすると大変な事件ですよ。チューブ入りの絵の具が出来たのもそういうことで、屋外に絵の具を持っていかないといけないからなんですよね。

島中: でも確かに、印象派というと、マネ、モネ、ルノワール、ドガというのが浮かんできますよね。一般の人達は、中根さんのおっしゃるような認識なのかもしれませんね。逆に僕なんかは印象派について学校で強制的に教えられてきたけれど、まったく習わないでこういう作品たちに出会いたかったなあと思いますよ。

中根: 当時の印象派の人たちには、“自分たちは革命を起こしているんだ”というような気概のようなものはあったんですか?

宮澤: それはなかなか微妙な問題だけれど、そうでもなかったんじゃないかな。結局、画家って結構単純だと僕は思うんですよ。どうやったら自分たちの表現したいものをちゃんと描けるのか、とか、自分たちが見ているものをそのまま描くにはどうしたらよいのか、とか、ひたすらそういうことを考えてやっていただけじゃないかと。当時幅を利かせていたサロンというものに相対する気持ちなんかはあったかもしれないけれど。

島中: 印象派って、言うなれば、それまでのお抱え絵師的な立場、作品から、自分の思いというか、自分のために絵を描くという、今のアートの源流を作った人たちですよね。もちろん誰かのために描くという分野は今でもありますが、そこから最初に絵を開放した。そういう素直さみたいなものは、今の時代に活動する作家さんたちにも絶対必要だと思いますね。

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