ビニールの城

松たか子×森山未來 スペシャル対談

SPECIAL TALK松たか子×森山未來 スペシャル対談

―お二人は『メタルマクベス』以来の共演ですね。

松たか子(以下松)10年経って、未來君と、串田さんの演出で再会するとは・・・怖すぎますね(笑)。彼がこの間、いろいろなことに挑戦して、全部を見てはいないけど、いつも、すごいなと思っていて。まだ稽古も何も始まっていませんが、何となく自分の得意な方にもっていってはいけないと感じていて、そういうときに、一緒に舞台に立てるのは、とても心強いし、足を引っ張らないようにしなきゃと思っています。顔がね、優しいほうに変化していて、面白いですね。

森山未來(以下森山)(笑)。僕なんかは、とても松さんのことをどうこう言えるような立場ではないので。一人で、全部背負えるすごい人だから。大好きな女優さんです。本当に力があるので、今回、どうやってつつこうかな(笑)と思っているくらい。

未來君は厳しいよね。お芝居を観に来て、「これでいいの?」的な感想を言うので、頑張らなきゃと思わせてくれる存在。いろいろな見方があるのは当然ですけど、「そういう視点があったか」と、ハッとさせられます。

森山それは、松さんに意見を言える人ってなかなかいないから、俺ぐらいは何か言わないと、と思ってのことです。松さんは、楽屋に颯爽と現れては僕に「すごいね、頑張ってね」って言い放って、すぐ帰っちゃうでしょう。

素直にすごいと思うから。身体能力の高さは他の人にはないものだから、ずっと「すごいね」と言われ続けてほしい。それに言葉でもいろいろ解釈できちゃう人なので、難しいことはあんまり言わないで、バーンと行こうよ!みたいな気持ちも(笑)、今回ありますね。

森山この作品の中で、松さんが演じるマリアは象徴的な存在だと思うので、信頼して向き合っていきたい。まだ、どうなるのか全然わからないけど、多分、みんなが動いて作っていく感じになるだろうから、頭でっかちにならずに柔らかい状態でいたいですね。

―森山さんは串田さんの演出は初めてって意外ですよね。

森山串田さんはホンも書くし、舞台美術もおやりになるし、いろいろな切り口から作品を構築していく、その目線が面白いなと思っています。『十二夜』の空気感とかね、印象的だったし、『ひょっこりひょうたん島』では身体を使った表現もたくさんありましたしね、

わりと、いつまでも決めないんですけど、ある時急に「できてるよね」って顔になる(笑)。だから油断できないんだけど。でも、大森博史さんや内田さん、先輩方が一番、動き回ってアイデアを出しているので、頑張らなきゃと思います。

森山映画『メトロポリス』では、群衆や巨大な機械など、規模で見せていく感じがあるけど、舞台ではどうなるのか?具象的なものを見せないで、どう表現していくのか、楽しみではあります。串田さんは今の演劇界の中で、そういう表現にチャレンジしていると思うので。ディスカッションしながら作っていくの、面白いですよ、きっと。

スケールの大小に関係なく、串田さんは自分の世界を作る方だと思います。スケールや群衆を想像してもらえる舞台になるといいですね。本当に今までの串田さんのお芝居に出してもらった経験とは違うものにならないといけないなと思って。自分も挑戦ですね。ファンタジーでもないし、メッセージだけ残ればいいわけでもないし・・・。そのために私や未來君や飴屋法水さんがいるわけだし。

森山飴屋さんね!興奮しますよね。ずっと気になっている方で、ボーダーレスな人だなと。アート的なインスタレーションから演劇まで、すごく横断的な活動をしているから、串田さんとどうからむのか、興味がわきますよね。

貴重な経験ができるんじゃないかって。

―松さんはマリアとマリアそっくりのアンドロイドの二役ですが、キャラクターがまるで違うのですか?

変わるらしいのですが、まだ何とも。映画では全く違う性格付けになっていますが。

森山人格が変わると言うか、僕が演じるフレーダーも、戸惑うわけですよね。どちらが本物のマリアなのか。松さんが変わらなくても、僕がわからなくなるだけかもしれないし。

フレーダーは支配者階級の息子で、マリアは労働者階級で。

森山象徴的な言葉があるでしょう?「頭と手をつなぐのは心でなくてはならない」って。フレーダーが最終的には「心」の役目をする。それは、すごく現代的なテーマでもあって、今の状況に通じる話だと思う。原作の翻訳の方が、翻訳し直したのは、派遣切りの問題がきっかけだったそうです。いくらテクノロジーが進化しても、ずっと突きつけられている問題なんだろうなと。

90年も前に、2026年を想像した力は、すごいなと思う。思いの強さに驚きます。現代の人は、そんな想像力が働かないですよね。もちろん、今を生きている私たちが演じるのだし、今、上演するのだから、当時を再現するわけではないけれど、当時、『メトロポリス』を作った人たちの想像力のたくましさやパワーは借りたいですね。

森山これだけ濃いメンバーが集まっているので、テクノロジーと身体、どう作用しあうのか、その結果、どんな作品になるのか、楽しみですね。

派手になるのか、ならないのかわからないけど、多分、串田さんは全部を取り込んで作ってくれると、信じているので。想像力と、そこにある現実と、両方を受け止めてもらえたらうれしいです。

文・沢美也子

撮影・宮川舞子