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渋谷・コクーン歌舞伎 第十三弾 天日坊

原作:河竹黙阿弥 「五十三次天日坊」 演出・美術:串田和美 脚本:宮藤官九郎

2012年6月15日(日)~7月7日(土) Bunkamuraシアターコクーン

串田和美メッセージ

18年目のコクーン歌舞伎《天日坊》への想い ・・・ 串田和美

1994年に始まったコクーン歌舞伎に演出という立場で関わってきた私は、歌舞伎という演劇を現代の目線で見つめ直し、その戯曲を自分自身の現代的解釈で読みなおし、今ここに生きている自分たちの演劇として演出してきました。それは400年前に始まった歌舞伎という江戸庶民の芸能を現代演劇としてどれだけ再生できるかという試みでもありました。登場人物たちの社会的背景や潜在しているであろう心情を読み解く作業でもあったし、時には物語の整合性を探す作業でもありました。しかし歌舞伎はいつも、私が追いかける以上に大きなものであり、魅力的混沌に満ちているものであることに気づかされました。
今回黙阿弥の初期の戯曲『天日坊』を上演するに当たり、宮藤官九郎さんに新たな上演台本を書いていただきました。以前宮藤さんが書いて歌舞伎座で上演された『大江戸りびんぐでっど』を観て、ああ江戸の庶民たちが楽しんでいた歌舞伎はこんなものだったのかもしれないなあと思わされました。本当のことは誰も生まれていなかったので、わかりませんが、私にはそう思わされてしまう魅力を強く感じました。そして今回出来上がって来た台本を読んで、これまで自分がとってきたスタンスとは少し違う角度から演出してみたくなるような、もしかしたら本質的な歌舞伎の面白さをまた見つけ出せそうな、そんなわくわくするものを感じました。
それがどういうことかをことばで言い表すのはなかなか難しいのですが、今回はあまり意味など追わずに、若き黙阿弥と宮藤官九郎が提示した物語をそのまんま受け入れ、説明しがたい演劇の自由な魅力を見つけたいと思っています。いくつもの矛盾が混然と絡み合った、なんともバロックな、いびつに輝く、単純で複雑な、滑稽で大真面目な、超古風で超新しい「コクーン歌舞伎」をつくりたいと思っています。
そんなわけで、衣装やかつらはみなさんが見慣れた歌舞伎のものとは、少し違うかもしれません。(今デザインをしている最中です。)
いつものお囃子は聞こえません。何本ものトランペットが鳴り響きます。(最初に原作を読んだ時、いきなりトランペットが鳴り響いたのです。突然の啓示のような、根拠なき野望のような音色が。)
今回はどういう訳か、おなじみの常連歌舞伎俳優たちがほとんどいません。コクーン歌舞伎が始まった時、中学生だった勘九郎さんを中心に若手歌舞伎俳優と白井晃さん、真那胡敬二さん、近藤公園さんら現代劇の俳優が何人も入ります。きっとお互いに刺激し合い、新たな台詞の言い回し、新たな歌舞伎的演技表現を探し出す作業が始まるはずです。
今ここで観ている歌舞伎ではなく、遠い血の記憶が思い描く、懐かしく未知の歌舞伎演劇が生まれることを夢見ています。どうぞご期待ください。