『セールスマン』の公開を記念して、主演を務めたラナ役のタラネ・アリドゥスティとアスガー・ファルハディ監督が2009年にタッグを組んだ『彼女が消えた浜辺』の1日限りの特別上映とQ&Aの開催が決定いたしました!35ミリフィルムでの上映となります。
避暑地でのヴァカンス──ひとりの女性が忽然と美しい浜辺で姿を消した。彼女の名前はエリ。わたしたちは彼女についてそれしか知らなかった…。
その突然の出来事は、あまりにも奇妙で謎めいていた。ささやかな週末旅行を楽しもうと、テヘランからカスピ海沿岸の避暑地にやってきた大学時代からの友人たち。その参加者の一人でありエリという若い女性が、幻のように消えてしまったのだ。滞在中のヴィラが浜辺にあったため、エリが海で溺れたのではないかとパニックに陥った一行は懸命の捜索を繰り広げるが、彼女の姿はどこにもない。もしやエリは何らかの事件にでも巻き込まれたのか。それとも別れを告げず、ひとりでテヘランに戻ってしまったのか。さまざまな可能性を論じ合う一行は、すぐさま答えのみつからない問題に突きあたる。彼らが親しみをこめてエリという愛称で呼んでいた“消えた女性”の正式な本名さえもわからず、彼女について何ひとつ知らなかったということに…。
恋愛、結婚、離婚、そして秘密と嘘… 濃密な心理サスペンスの果てに奥深い“真実”のかけらが浮かび上がる極上のヒューマン・ミステリー!
アッバス・キアロスタミ、モフセン・マフマルバフといった巨匠やバフマン・ゴバディらの俊英を輩出し、世界的にも極めてユニークかつ野心的な傑作を数多く生み出してきたイランから、新たな驚きをもたらす映画が届けられた。その注目の一作『彼女が消えた浜辺』はイラン映画としては珍しく、中流階級の男女がヴァカンスに興じるシチュエーションで幕を開け、巧妙にして予測不可能なストーリーテリングで観る者を釘づけにする。謎が謎を呼ぶ心理サスペンスに、鋭い問題提起や社会的メタファーをさりげなく織り交ぜたこの群像ドラマは、漠然とした不安を抱える現代人の胸をざわめかせずにおかない。さらには寄せては返す波のような登場人物の息づまるやりとりを通して浮き彫りにされるのは、うわべからは容易にうかがい知れない秘密や嘘を隠し持つ人間という生き物の複雑さ。そして人生というもののめぐり合わせの不可思議さだ。
本国イランでは2009年の年間興行収入2位となる大ヒットを記録し、ベルリン国際映画祭最優秀監督賞(銀熊賞)やトライベッカ映画祭最優秀作品賞ほか数々の賞を受賞。豊かな娯楽性と作家性を兼ね備え、イラン映画のニューウェーヴ到来を感じさせる本作は、きっと日本人の心にもずしりと響き、しばし忘れえぬエモーショナルな映画体験となるに違いない。