私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.11

『ディスタント』ミヤギフトシ 河出書房新社

ユトレヒト 黒木 晃

『ディスタント』ミヤギフトシ 河出書房新社

2019年に発表された本作は、既に存在していた物語が、小説の姿を借りて現れた作品と言えるかもしれない。

美術家としても活動するミヤギフトシ初となる小説集は、『文藝』(河出書房新社)誌上にて、2017年から18年にかけて掲載された「アメリカの風景」、「暗闇を見る」、「ストレンジャー」の中編三作をブラッシュアップして収録したもの。

ニューヨークのアートスクールに通う主人公が、見知らぬ男たちの部屋を訪ね、ふたりが恋人同士であるかのような写真を撮っていく「ストレンジャー」をはじめ、映像、写真、インスタレーションなど、多様な形態で発表してきたミヤギの作品群とのゆるやかなつながりを見ることができる。

沖縄出身者としての日本、アメリカで触れたクィアカルチャー。作家自身の体験や記憶が物語となって重なり合い、また、登場人物の回想を通して、各中編で描かれる風景が結びついていく。

作中では時折、ミヤギの現代美術作品のモチーフを思わせるシーンや風景が現れる。彼の美術作品を鑑賞したことがある人にとっては、それらが奇妙なデジャヴとして、未見の方にとっては、美術作品が懐かしい未来として、読者/鑑賞者の前に現れることだろう。

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